データアクセスオブジェクト (DAO)

データアクセスオブジェクト (DAO) は、異なるデータベース管理システム (DBMS) 上に保存されたデータに接続するための包括的な API を提供します。 DAO を用いてデータにアクセスすることで、コードを変更せずに異なる DBMS を利用する事が可能になります

Yii DAO は MySQL や PostgreSQL といった多くのポピュラーな DBMS への統一的なデータアクセスを提供する PHP Data Objects (PDO) 拡張を用いて構築されています。 そのため、Yii DAO を利用するには、PDO 拡張と特定の PDO データベースドライバ (たとえば PDO_MYSQL) がインストールされている必要があります。

Yii DAO は、主に以下の 4 つのクラスから構成されています:

以下に、さまざまなシナリオでの Yii DAO の使用方法を紹介します。

データベース接続の確立

データベース接続を確立させるには、CDbConnection のインスタンスを作成して active にします。 データソース名 (DSN) がデータベースに接続するために要求される情報を指定するために必要です。 おそらく username と password も接続を確立させるために必要でしょう。 接続を確立する際にエラーが起こると例外が発生します (たとえば、間違った DSN や無効な username/password)。

$connection=new CDbConnection($dsn,$username,$password);
// 接続を確立する。try...catch で例外処理を行う事もできます
$connection->active=true;
......
$connection->active=false;  // 接続を閉じる

DSN のフォーマットは、使用する PDO データベースドライバに依存します。 一般的には、DSN はその PDO ドライバ名に続けてコロン、その後に、ドライバ個別の接続シンタックスを指定します。 詳細な情報は、PDO documentation を参照してください。 以下に、一般に用いられる DSN フォーマットのリストを示します:

CDbConnectionCApplicationComponent から拡張されているため、アプリケーションコンポーネント として使用できます。 そうするには、アプリケーション初期構成 内で db という名前 (もしくは他の名前) のアプリケーションコンポーネントを下記のように設定します。

array(
    ......
    'components'=>array(
        ......
        'db'=>array(
            'class'=>'CDbConnection',
            'connectionString'=>'mysql:host=localhost;dbname=testdb',
            'username'=>'root',
            'password'=>'password',
            'emulatePrepare'=>true,  // MySQL の設定によっては必要
        ),
    ),
)

その後、CDbConnection::autoConnect 設定が false になっていない限り、すでに自動的にアクティブになっている Yii::app()->db を利用してDB 接続にアクセスできます。 このアプローチを使うと、単一の DB 接続をコード中の色々な場所で共有することができます。

SQL 文の実行

一度データベース接続を確立すれば、CDbCommand を使用して SQL 文を実行できます。 まず、特定の SQL 文によって CDbConnection::createCommand() を呼び、CDbCommand のインスタンスを作成します:

$connection=Yii::app()->db;   // "db" 接続を構成したと仮定した場合
// もしくは、明示的に接続を作成してもよい
// $connection=new CDbConnection($dsn,$username,$password);
$command=$connection->createCommand($sql);
// もし必要なら、SQL 文を下記のように更新できます:
// $command->text=$newSQL;

SQL 文は、次の2つの方法のうちのいずれかで、CDbCommand によって実行されます:

SQL 文の実行中にエラーが発生した場合は、例外が発生します。

$rowCount=$command->execute();   // 非クエリ型 SQL を実行する
$dataReader=$command->query();   // クエリ型 SQL を実行する
$rows=$command->queryAll();      // クエリを実行して、結果の全行を返す
$row=$command->queryRow();       // クエリを実行して、結果の最初の行を返す
$column=$command->queryColumn(); // クエリを実行して、結果の最初の列を返す
$value=$command->queryScalar();  // クエリを実行して、最初の行の最初の項目を返す

クエリ結果の取得

CDbCommand::query() により CDbDataReader インスタンスを生成した後に、CDbDataReader::read() を繰り返し呼ぶことで、結果データの行を取り出せます。 データを一行ずつ取り出すために、PHP の foreach 文の中で CDbDataReader を使用できます。

$dataReader=$command->query();
// false が返るまで、繰り返し read() を呼び出します
while(($row=$dataReader->read())!==false) { ... }
// foreach を用いてデータの全行を取り出します
foreach($dataReader as $row) { ... }
// 一つの配列として、一回で全行を取り出します
$rows=$dataReader->readAll();

注意: query() と異なり、全ての queryXXX() メソッドは直接データを返します。 たとえば、queryRow() は、クエリ結果の最初の行を表現する配列を返します。

トランザクションの使用

アプリケーションがいくつかのクエリを実行して、各クエリがデータベース中の情報を読み書きする場合は、クエリのどれかが実行されずに残る、という事が無いように確認することが重要です。 Yii の CDbTransaction インスタンスとして表されるトランザクションは、このような場合に開始できます:

上記のワークフローは次のコードを使用して実装できます:

$transaction=$connection->beginTransaction();
try
{
    $connection->createCommand($sql1)->execute();
    $connection->createCommand($sql2)->execute();
    //.... 他の SQL の実行
    $transaction->commit();
}
catch(Exception $e) // クエリの実行に失敗した場合、例外が発生します
{
    $transaction->rollback();
}

パラメータのバインディング

SQL インジェクション攻撃 を避け、繰り返し使用される SQL 文の実行パフォーマンスを改善するために、SQL 文とオプションのパラメータプレースホルダを "準備 prepare" することが出来ます。 プレースホルダは、パラメータバインディングの過程で、実引数と置き換えられることになっています。

パラメータプレースホルダは、名前付き (ユニークなトークンとして表される) か、無名 (クエスチョンマークとして表わされる) かのどちらかを使えます。 CDbCommand::bindParam()CDbCommand::bindValue() を呼び出す事で、これらのプレースホルダを実引数に置き換えます。 パラメータを引用符で囲む必要はありません。下層のデータベースドライバがその処理を行なってくれます。 パラメータバインディングは、SQL 文を実行する前に行われなければなりません。

// ":username" と ":email" の二つのプレースホルダをもつ SQL
$sql="INSERT INTO tbl_user (username, email) VALUES(:username,:email)";
$command=$connection->createCommand($sql);
// プレースホルダ ":username" を実際の username 値で置き換える
$command->bindParam(":username",$username,PDO::PARAM_STR);
// プレースホルダ ":email" を実際の email 値で置き換える
$command->bindParam(":email",$email,PDO::PARAM_STR);
$command->execute();
// 別のパラメータを使って別の行を INSERT する
$command->bindParam(":username",$username2,PDO::PARAM_STR);
$command->bindParam(":email",$email2,PDO::PARAM_STR);
$command->execute();

bindParam() メソッドと bindValue() メソッドは、とても似ています。 唯一の違いは、前者はパラメータにバインドするのに PHP 変数の参照を使い、後者は変数の値を使うということです。 大きなメモリブロックで表わされるデータをパラメータに指定する場合は、パフォーマンス的に前者の方法を利用する事を推奨します。

バインディングパラメータについての詳細については、関連する PHP ドキュメント を参照してください。

カラムのバインディング

クエリの結果を抽出 (フェッチ) する場合、カラムを PHP 変数にバインドすることで、一行抽出されるごとに、変数に最新のデータが自動的に入るようにする事ができます。

$sql="SELECT username, email FROM tbl_user";
$dataReader=$connection->createCommand($sql)->query();
// 第 1 のカラム (username) を $username 変数にバインドする
$dataReader->bindColumn(1,$username);
// 第 2 のカラム (email) を $email 変数にバインドする
$dataReader->bindColumn(2,$email);
while($dataReader->read()!==false)
{
    // $username と $email には、現在の行の username と email の内容が入っています
}

テーブルプレフィックスを使う

Yii はテーブルプレフィックスの使用について、統合的なサポートを提供しています。 テーブルプレフィックスとは、現在接続されているデータベースのテーブル名の前に付加されている文字列を意味します。 たいていは、共有ホスティング環境において使われます。複数のアプリケーションが単一のデータベースを共有しつつ、お互いを区別するために違うテーブルプレフィックスを使うという形です。 例えば、あるアプリケーションは tbl_ をプレフィックスとして使い、他のアプリケーションは yii_ を使うという具合です。

テーブルプレフィックスを使うためには、CDbConnection::tablePrefix プロパティを望みのテーブルプレフィックスに構成します。 そして、SQL 文においてテーブル名を指定するのに {{TableName}} という書式を使います。 ここで TableName はプレフィックスを除外したテーブル名を指します。 例えば、データベースが tbl_user という名前のテーブルを持っていて、tbl_ がテーブルプレフィックスとして構成されている場合、ユーザに関するクエリのコードとして下記を使うことが出来ます。

$sql='SELECT * FROM {{user}}';
$users=$connection->createCommand($sql)->queryAll();
$Id$